「そなえよつねに」をSDGs につなげる~東京都第172団の活動
2021年3月11日、2011年に未曾有の被害をもたらした東日本大震災から10年を迎えます。この震災から受けた痛みは多くの人の心から消えることはなく、10年を迎える今もなお、余震は続き、いつどこで大きな地震が来るかわからない中で私たちは生活をしています。また、近年は地震以外にも自然災害の被害は大きく、だれもが被災する可能性があります。
ガールスカウト日本連盟は、東日本大震災が発生した2011年に、「ガールスカウト東日本大震災支援プロジェクト」を立ち上げ、5年間の取り組みとして支援活動を進めた後、2016年度からは「ガールスカウト防災・減災プロジェクト」として実施しています。
ガールスカウトのモットーは「そなえよつねに」。防災の意識を持ち、心の準備・情報収集・技術の習得をして、自然災害に備えることで、いつどのような困難に直面しても、自分で自分の身を守ることができるようになることを目的として、防災・減災教育を促進しています。
ガールスカウト東京都第172団(以下172団)は、地域を中心に防災教育に積極的に活動しています。ガールスカウトならではの視点を生かし、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を意識しながら、少女たちが自分たちの視点で防災について考え、防災を福祉やジェンダーなど社会の解決すべき問題と結びつけながら取り組んでいます。172団の指導者にお話を聞きました。
地域での活動
寄付付き防災ポーチの発売
172団が防災教育の一環として取り組んでいるのが「防災ポーチ」を広める活動です。防災ポーチは、外出時の災害を想定して防災用品を入れて常に持ち歩く「わたし」のためのポーチです。
同団は、ガールスカウト日本連盟の防災教育、防災マイスターバッジプログラムのアクティビティから「マイ防災ポーチ」を団で実践し、同連盟が主催する2017年度のコミュニティアクション チャレンジ100では、「ヘルプマークを広めよう※」という活動でコミュニティアクション チャレンジ賞に入賞した実績があります。これらの防災と福祉という活動の経験を生かし、少女たちが自主的に寄付付き防災ポーチのプロジェクトを始めました。(※ヘルプマーク:障害や疾患などがあることが外見からは分からない人が、支援や配慮を必要としていることを周囲に知らせることができるマークです。)
地域で販売を始めたのは、2019年4月からです。2019年度は、2回のお祭りで地域の人に防災ポーチを販売し、この活動を広めました。 100円均一のお店で購入したポーチに、マスク、ばんそうこう、ガールスカウトの防災カードを入れて発売し、その収益を地域の施設へ寄付しました。
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、なかなか販売する機会がありませんでしたが、そのような中でも、一緒に活動している地域のこどもボランティア団体のご厚意で販売することができました。収益はヘルプマークを持っている方の団体に寄付しています。
地域のイベントで発売したときには、ガールスカウトたちが購入された方に、ポーチの中に入れたいもののアンケートも取りました。
ガールスカウトたちの感想
- 防災ポーチを販売することで、多くの人にポーチの意味を伝えることができて嬉しかったです。
- 販売用のポスターの作成や、ホイッスルを入れることなど、初の試みもできました。
- コロナの中でも防災ポーチを広めて、持っている人を増やしたいです。
STAY HOME中の活動
172団は、2020年度もより多くの方に広める活動を計画していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で計画通りには実施でませんでした。2020年4月は一回目の緊急事態宣言が全国で発令されました。不要不急の外出自粛、学校が休校になるなどの状況の中で、家でできるSTAY HOMEの取り組みとして、団では防災ポーチの見直しを呼びかけました。
そこで、ガールスカウトたちは自分たちの防災ポーチの中身について、見直しをおこないました。
ブラウニー(小学1年生から3年生)のポーチ
ブラウニーのコメント
- あめや薬など消費期限のあるものは交換し、小さい懐中電灯と交換用の予備の電池も入れました。
- 自分がけがをしたときも、友達がけがをしたときも、手当てができるように、ばんそうこうやガーゼを入れました。
保護者のコメント
- 何かあったときは、「けがが怖いから」と、湿布を自分から考えて入れていました。
- 全体的に必要最小限に留めて、自分に合ったポーチを完成させていました。
ジュニア(小学4年生~6年生)のポーチ
このジュニアスカウトは、外出先に合わせた3種類の防災ポーチを作り、使い分けています。
最小限のもの、持ち歩けるもの、最大限のもの、と中身や大きさを分けて外出先によって中身を入れ替えなくても済むように用意しているそうです。ポーチもわかりやすいように違うものに分けています。
ポーチの中身は災害を想定しジュニア自身が考えました。
- 鏡や笛などは、災害時自分ががれきの中に埋もれて助けが来ないときに居場所を知らせるため
- 手ぬぐいは腕が折れたときに巻いたり、砂やほこりを吸わないようにしたりするため
- 軽くするためにティッシュやハンカチは小さめのものを用意しました。
防災ポーチの中身は、持つ人の年代によっても今まで入っていなかったものが追加されたり、数や大きさを調整したり必要に応じて見直しています。レンジャー(高校生年代)では、重くならないようにする、モバイルバッテリーを入れるなど、年代に応じた気付きが見られます。自分のためのポーチですが、少女たちは友達など周りの人のことも考えながら入れるものを選んでいるようです。
SDGsを意識した活動「防災、福祉、ジェンダー」
172団は、「ガールスカウトのチカラで防災女子を増やそう」とういう企画の活動が認められ内閣府の「2020年度防災教育チャレンジプラン」で防災教育優秀賞を受賞しました。この企画には、防災ポーチの販売、広報、防災集会実施、その活動にジェンダーの視点が取り入れられています。受賞の理由は以下の点が高く評価されました。
- 常時必需品としてマスクや防災カード、女性の視点として取り入れられたホイッスルなどが入ったオリジナル防災ポーチを、寄付付きの商品として販売し寄付するという先進的な取組を実施した点
- コロナ禍という不測の事態にもかかわらず、防災ポーチの販売ができない時期は、ポスターを作成して、広報PR活動をおこなうなど臨機応変に、さまざまな活動を積極的におこなった点
ガールスカウトでは持続可能な開発目標(SDGs)につながる活動を積極的に進めています。
172団は、ポーチの収益を寄付することで、「人に役立つことを心がけ」というガールスカウトの「やくそくとおきて」を守り、防災教育に福祉の視点を加え、応援消費のできるSDG12「つくる責任つかう責任」につなげる活動にすることができました。少女たちが主体的にジェンダーの視点を加えたことはSDG5「ジェンダー平等を実現しよう」を、そして、地域に自分たちの活動を広げることはSDG11「住み続けられるまちづくりを」を目指した活動です。
作成したポスターは、チラシにして区内の店舗や社会福祉協議会などで配布していただけるように準備を進めているそうです。2020年に前述のこどもボランティア団体と一緒に発行した子ども新聞『すずらん新聞』には「防災×ヘルプマーク×ジェンダー」の記事が掲載され、同紙は練馬区立図書館の蔵書になり、区内消防署に掲示されました。また、ジュニアスカウトがこの新聞を学校で紹介したり、レンジャースカウトは学校のクラスメイトと連携して活動を進めたりするなど、地域に「防災、福祉、ジェンダー」の意識を高めるための活動を積極的に続けています。